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IT社労士による労務管理の勘所

コラム執筆者プロフィール

野田宏明 氏
社会保険労務士。
情報処理技術者(ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、アプリケー ションエンジニア)。ITサポート社会保険労務士事務所代表。
メーカー系IT企業にて人事業務のシステムコンサルタントに従事。大規模から中小規模まで多くの企業に対し、人事業務における業務コンサルティングからシステムの導入・運用保守まで一貫した対応を多数実施する。
その後、社会保険労務士として現職に至る。労務相談や教育講師の他、電子申請、給与計算などの領域にてITを活用した効率化をご提案する社会保険労務士として活躍中。
このコラムでは、社労士とシステムコンサルの視点にて、労務管理の様々なテーマを取り上げていきたいと思います。
ITサポート社会保険労務士事務所HPhttp://www.it-sharoushi.jp/

第016回 社会保険の適用拡大、ケース別のメリットとデメリット

(2016年5月)

 平成28年10月より、短時間労働者に対する社会保険の適用が拡大されます。対象となる会社(被保険者500人超)で要件に該当するパートタイマーの方などは、10月より厚生年金保険と健康保険に新たに加入することになります。
 加入の要件については、色々なところで解説されているので、ここでは特に触れません。今回は、パートタイマーの方が新たに社会保険に加入することになる場合、どのようなメリット・デメリットがあるのかを、いくつかのケースをあげて解説してみたいと思います。

 社会保険に加入すると、保険料が給料から天引きされるため、単純に「損することになる!」と考えてしまう方も多いかと思います。保険料の負担は決して軽くはありませんので、確かにそう思うかもしれません。しかし、実はそれぞれのケース(家族状況等)によって大きく異なります。
 企業の人事総務部門の方も、10月以降のパートの雇用契約で混乱を招かないために、パート従業員の方には正確な情報をお伝えしておく必要があると思います。


【ケース1】現在、サラリーマンの夫の扶養に入っているケース
 このケースに該当する方が最も多いと思います。この方が社会保険に加入することになると、どうなるでしょうか。



(健康保険)
 夫の扶養から外れることになりますので、新たに負担することになる健康保険料は純粋に負担増になります(夫の保険料が減ることもありません)。ただし、健康保険として、出産手当金や傷病手当金の受給ができるようになります。パート勤務といってもしっかり一家の収入の一部を担っているような場合には、これらの制度は心強いでしょう。

(厚生年金保険)
 夫の扶養となっている場合、国民年金第3号被保険者となります。この場合、国民年金保険料は発生しません。これが、自ら厚生年金に加入するとなると、国民年金3号被保険者からは外れます(2号になります)。新たに負担することになる厚生年金保険料は、純粋に負担増ということになります。ただし、将来受け取ることのできる年金は支払った保険料に応じて増額されます。厚生年金の期間が短いからといって、年金に反映されないなんてことはありません。その他の期間できちんと国民年金に加入していれば、小額でもきちんと反映されるのです。その他、事故や病気等で障害の状態になった場合、障害基礎年金にプラスして障害厚生年金が受給できるなどのメリットもあります。


【ケース2】現在、自営業(個人事業主)の夫がおり、世帯で国民健康保険に入っているケース
 このケースに該当する方は、むしろ積極的に社会保険に加入するべきだと思います。会社の社会保険は会社が半額負担しますので、加入したほうが保険料、保険内容の両面でメリットがあるでしょう。



(健康保険)
 国民健康保険は世帯で加入しています。自分が健康保険に加入すると、新たに給料から天引きされる健康保険料が発生しますが、国民健康保険料は減額されることになります(金額は世帯収入等の状況によるため市区町村に確認してください)。
 会社の健康保険料は、例えば月給10万円の場合、月額5000円程度の負担となります(40歳以上の場合、さらに介護保険料が必要)。会社が保険料の半額を負担しているため、割安に加入することができるのです。

(厚生年金保険)
 自身で納付していた国民年金保険料(16,260円/月額)は不要となり、給与から天引きされる厚生年金に切り替わります。例えば月給10万円の場合であれば、月額9000円程度の負担となります。保険内容的には「国民年金+厚生年金」なのですが、国民年金よりも格段に保険料が安いですね。これも、会社が保険料の半額を負担するからです。


【ケース3】現在、夫以外の扶養(健保・税)に入っているケース

 サラリーマンである親などの扶養に入っている場合、夫などの配偶者の場合とは少し状況が変わります。



(健康保険)
 これはケース1と同じです。

(厚生年金保険)
 国民年金第3号被保険者になれるのは、夫などの配偶者の扶養に入る場合だけです。親の健康保険の扶養に入っているような場合、年金に関しては、国民年金第1号被保険者として自ら国民年金保険料(16,260円/月額)を納付している方になります。
 この方が、会社の厚生年金に加入すると、給与から天引きされる厚生年金に切り替わります。ケース2で記載したとおり、例えば月給10万円の場合は月額9000円程度の負担となります。健康保険の保険料は純粋に増えることになりますが、年金としては会社負担のおかげで随分とお得になります。


【ケース4】現在、誰の扶養にも入っていないケース
 あまりいないケースだと思いますが、一応解説します。結論から言うと、今回の適用拡大以前の話として、入れるのであれば入るべき方となります。



(健康保険)
 国民健康保険から健康保険に切り替わります。現在の国民健康保険料の金額にもよりますが、保険料としてはトントンぐらいかもしれません。
 給料から天引きされる健康保険料は、ケース2で記載したとおり、例えば月給10万円の場合、月額5000円程度の負担となります(40歳以上なら介護保険料が必要)。健康保険であれば、傷病手当金や出産手当金など、国民健康保険には無い給付が受けられますので、国民健康保険に比べて保険内容にメリットがあります。

(厚生年金保険)
 ケース3と同様です。国民年金1号から厚生年金に切り替わることになります。保険内容、保険料共にメリットがあります。



 ところで、「どうせ社会保険に加入することになるなら、この際もっと働いて稼ぎを増やそう」と考える方もいらっしゃるかと思います。会社としてもその方が有難いかもしれません。
 その場合に注意すべき点をいくつか挙げておきますので、参考にしてください。

●夫の所得税が増える可能性があります
 税扶養から外れる、または、配偶者特別控除が減額、あるいは受けられなくなる可能性があります。
 今回の制度変更で社保対象になる方は年収106万円以上の方のため、税扶養(103万円以下)となっている方は、単純計算だといないことにはなりますが、念のため記載しています。配偶者特別控除に関しては影響受ける方が多いでしょう。

●家族手当の支給対象から外れる可能性があります
 家族手当なので、当然ながらその会社の規程次第です。パート収入を増加したことによりその基準から外れるのであれば、あらかじめ知っておいた方がよいでしょう。
 厚生労働省は、配偶者手当について、その在り方の検討を進めています。平成28年4月に公表された資料では、配偶者手当を支給する企業のうち、収入制限のある企業は約84.9%です。そのうち、税扶養ライン103万円が68.8%、健保扶養ライン130万円が25.8%となっています。この配偶者手当の存在がパートタイマーの就労の妨げになっているという課題についてはここでは触れませんが、自分の場合、稼ぎを増やすと夫などの家族手当にどのような影響があるかは、把握はしておくべきでしょう。

今回は少々長文になってしまいましたが、よく質問を受ける内容です。ご参考になればと思います。
なお、ケース別に記載したものは、一般的な内容で記載していますので、ご自身で確認するようにお願いします。



※本コラムは執筆時点で公となっている情報に基づいてコラムニストが執筆したものであり、コラムニストの意志を尊重し原文のまま掲載しています。
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